祇園精舎の鐘の声
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす
祇園精舎の鐘の声って、どんな響きなのでしょう?
そもそも祇園精舎って、何なのでしょう?
ひとつひとつコトバの意味を考えていくと、知らないことだらけです。それをひとつづつ調べて行くのも、楽しい作業です。
知らず知らずのうちに暗唱している『平家物語』の冒頭の一文。『平家物語』の諸伝本は100を越えるといわれていますが、この始まりだけは共通しているといいます。
「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)」というのは、中インドのサーヴィッティー国にあった精舎です。スダッタ長者が、ブッダとその教団のために、ジェーダ太子の林苑(祇樹給孤独園{ぎじゅぎっこどくおん}と漢訳される)を買い取って僧院を建立したました。「祇樹給孤独園」を略して「祇園」とし、精舎というのは寺院、僧院のことです。
祇園精舎にはたくさんの院や堂が建っていました。その中に「無常堂」というものがあります。精舎で修行する僧が病にかかって命が尽きようとするとき、無常堂に移って、無常を観じさせます。この堂の四隅には玻璃の鐘がありました。病僧が臨終を迎えるまさにその時、四隅の鐘がひとりでに鳴り出し、「無常偈」を説くのだといいます。その音を聞きながら病僧は安らかに息をひきとります。
「無常偈」とは、「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」(諸行は無常にして これ生滅の法なり 生滅は滅しおはりて 寂滅なるを楽しみとなす)という四句の偈です。
重要なのは、『平家物語』の冒頭の句と類似する文言は、『平家物語』が語れていた当時、浄土教信仰の流行とともに、寺院での説教や法会の場でさかんに語られて、また「祇園精舎の鐘」も、『栄華物語』や『梁塵秘抄』などに見え、当時の人たちにとって、イメージを喚起させるもっともポピュラーなキーワードであったことです。
「玻璃の鐘」。わたしはやはり気になります。どんな音?
玻璃とはガラスのこと。夕食時、夫とガラスのコップを指で弾いて、あれこれと想像しました。
チリン、チリン。
中国へよく旅行します。開封の相国寺の風鐸の音、寧夏回族自治区の拝寺口双塔の風鐸の音、いずれも風が吹くたびにはかなげに鳴り響いたのが忘れられません。それが祇園精舎の鐘の音に重なって聞こえてきます。
【参考引用文献】
中村元『図説仏教語大辞典』(東京書籍)
※「祇園精舎」については、『祇園図経』(『大正新修大蔵経』45所収)に説かれています。
水原一『平家物語の世界 上』(日本放送出版協会)
兵藤裕己『平家物語〜〈語り〉のテキスト』(ちくま新書)
冨倉徳次郎『平家物語全注釈 上』(角川書店)
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