ダライ・ラマ14世法王、来日、の巻
ダライ・ラマ14世法王は10月30日から日本を訪れておられた。東京、愛媛、沖縄を訪問され、本日(11月7日)にインドの聖地ダラムサラへの帰途につかれたはずである。昨年に引き続きの来日、ありがたい限りである。
と、いうことで、私は東京でおこなわれた法話に参加した。会場は両国の国技館。せっかく両国までいくのだから、まずは江戸東京博物館を覗く。ここは館内での写真撮影が許されているから嬉しい。授業のネタ集めとして、いっぱい撮らせてもらう。
そして、法話の会場である両国国技館へ向かう。国技館前の歩道では、チベット・サポーターの方々が法王のチベット帰還を訴えてプラカードを掲げておられる。共感。館内に入ると、もはや満員である。ロビーでは本屋さんが店を出して法王の著作やDVDなどの販売をしているが、近づけないくらいの黒山の人だかり。飛ぶような売れ行きである。どちらかというチベット問題に冷淡に思える我が国で、これだけ多くの方々が関心を持っておられることは嬉しい。私も潜り込んで、手提げ袋一杯の買い物をしてしまう。
両国国技館に入るのは初めてだが、ふだんは相撲の土俵が設置されている中央部分が片付けられて、アリーナ席となっている。私は去年の北九州での法王の御講演に行った時ははるか遠くの三階席だったのであるが、今回はダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス)の会員として申し込んだから、アリーナ席が取れた。法王の御座からはいささか斜めだが、距離は近く、悪くない席である。
ついにダライ・ラマ法王の御登壇。法王、開口一番、「皆で般若心経を唱えましょう」とおっしゃる。と、会場の一角から朗々たる般若心経の合唱が響き渡る。私も一緒に唱えようと思うのだが、なんだかおかしい。どう聞いても、私の知っている般若心経とはぜんぜん違うのである。とまどってしまったのだが、後で真相がわかった。法王の御法話を聞きに、はるばる韓国から仏教僧の一団が来られていたのである。なるほど、韓国語の般若心経ならば、わからないのも当然である。
面白かったのは、通訳付きのチベット語で話し始めた法王、途中で突然、話を切って、「この中で英語の分かる人はどれくらいいますか?」と問いかけられる。他の国ならば英語で話をされることが多いので、通訳の手間を省ければよいと思われたのだろうな。ところがどっこい、ここは日本である。パラパラしか手があがらなかった。法王、「少ないですね」とつぶやいてニヤッと笑い、「では私もチベット語で続けます。この方が私も話しやすいから」とおっしゃる。
今回の御題は、「悟りへ導く三つの心と発菩提心—ラムツォナムスムとセームキュ」。かなり難しい話である。正直、私も充分理解できたとはとても言えない。まあこれは仕方ないな。あちらは観音菩薩の化身、こちらは一介の凡俗なんだから。
むしろ聴きものは、最後の質問コーナーの方にあった。司会者はふたりくらいで切りたいらしかったが、法王は次から次へと、結局7人の質問を受け付ける。中でも、最後に立った若い若い女性の時が注目だった。彼女は両手をぎゅっと握りしめながら意を決したように、「私は自分に自信がない。自分を好きになれない。どうしたら自分を好きになれるのでしょうか」と、法王に問いかけたのである。彼女、きっと決死の勇気を奮い起こして質問台に立ったのだろうな。法王はこれに対して、さながら慈父のように、静かにゆっくりと彼女に語りかけられる。法王の慈悲の心が彼女の胸に染み通っていく様子が手にとるように感じ取れる。感動的な場面であった。
最後の花束贈呈は、今年の準ミス・ユニバース(名前は知らない)と、元宝塚歌劇団のトップだった檀れいさん。檀さんはさすがに目をみはるほどの美しさであった。
今回の法王の訪日にあたって、ちょっと注目していることがあった。政権交替したばかりの日本政府が、法王に対してどのような対応に出るか、ということである。鳩山由紀夫氏は民主党幹事長時代の2007年11月、来日した法王と会談し、法王の進めるチベットの中道政策を支持する考えを表明している。この時には在日本の中国大使館は例によって例のごとしの傍若無人な非難声明を民主党に投げつけていたのである。しかしその時は野党。今回は鳩山さんも首相という立場になった。どんな対応をするか、興味津々であった。
結局は、「チベット問題を考える議員連盟」の有志の皆さんが法王と会談した。チベット議連の会長の牧野聖修議員(民主党、静岡1区選出、衆院政治倫理・公選法改正特別委員長)は従来からチベット問題に真剣に取り組んでおられる国会議員である(牧野議員と五十嵐文彦議員の共著『ダライ・ラマの微笑』、先日手に入れて読んだのだが、すごく興味深かった)。鳩山首相は「スケジュールの都合」を理由にして同席しなかったが、「再びお会いできることを願っている」という首相メッセージを牧野議員に託した。外交的にはいつもながらヘタレの姿勢しか示せないわが国としては、まあ精一杯の現実的対応だといわねばならないだろうな。ともあれ、牧野議員等だけでも法王に会え、鳩山首相も腰が引けながらもチベットの人々を見捨てていないという姿勢を示すことができたのは、良かったというべきだろう。
もちろん、これに対して中国は早速の非難声明をヒステリックに叫んでいる。まったく、いつもながらの駄々っ子的反応である。世界最大の人口と世界有数の軍事力を誇る中国が、たった一本の銃すら持たない丸腰の坊さんの一挙一動をこれほどまでに恐れているということが浮き彫りになるばかりである。こんな声明を出せば出すほど、ますます他国の人々から呆れられることがわからないのだろうか?