ダライ・ラマ14世法王、東大寺御講演、の巻
今年は日本在住のチベット・サポーターにとってはすばらしい年となった。6月に続いて二度も、ダライ・ラマ14世法王が来日されたのである。今回の御来日は、広島でおこなわれるノーベル平和賞受賞者世界サミットに出席するためのものである。しかも、その途中には久方ぶりに関西に立ち寄られるというのであるから、なんとしてでも参加して、法王の御尊顔を拝するべきなのである。しかし、今回の法王、11月6日に成田空港に降り立たれてから、大阪、奈良、愛媛県新居浜市(2回)、そして広島と、息をもつかせぬ強行軍である。相もかわらぬ精力的なご活躍に頭が下がる。例によって中国は、日本政府に対して「ダライ・ラマを入国させるな」などという横槍を入れてきたようであるが、お間抜けな話である。
今回は、東大寺での法王御講演に参加するために、奈良にむかう。近鉄電車に乗っていると、途中から高校生の大群が乗り込んでくる。なんじゃこりゃ、正倉院展の集団見学でもやるのかいな、と思ったのであるが、聞くともなしに聞いていると、法王がどうのこうのという声が聞こえる。あとでわかったのであるが、彼らは東大寺が経営する高校の生徒たちで、学校の行事として法王の御講演に参加するのである。高校生のあいだにそんな機会に恵まれるというのは、うらやましい限りである。
東大寺に着く。いったいどこが会場かいな、と思うと、なんと大仏殿の裏側である。大仏様を背にしての法話、なかなか洒落た趣向である。しばらく待って、いよいよ法王の御登場。横に長い座席配置であるから、今までで一番法王の御座に近い。ありがたい。法王の表情の細かなところまで見えるぞ。
しかし、法王が口を開かれて、ちょっとびっくりした。いつもの明快で歯切れの良い口調ではなく、元気のないしゃがれ声である。お風邪を召されて、ノドの調子を崩しておられるのがありありとわかる。講演中にもしばしば咳き込まれたり、ちり紙を出して鼻をかんでおられた。ついに、いつもの片肌脱ぎを止めて袈裟で身体を包み、首には毛糸のマフラーを巻くにいたられる。こんな法王の御姿を見たのは初めてである。時には袈裟を頭からすっぽりとかぶって、その中で鼻をかまれる。あとで聞いたところでは、すでに11月5日のインドでのITSG(国際チベット支援団体)全体会議の時にすでに風邪をひいておられたらしい。それにもかかわらず長旅での来日、そして連日の講演である。またマンの悪いことに、東大寺大仏殿の後堂広場は吹きさらしで寒いことこのうえない。法王様、もうこんな寒いところでの講演なんて切り上げて、どうか暖かいところでお休みください、かけがえのない大事な大事なお身体なのですから、と叫びたくなる。しかし、さすがは法王、できるだけ周囲に心配をかけないよう努力しておられる様子が手に取るように伝わってくる。
例の東大寺学園高校の生徒たち、会場の北側に集団で座っている。大丈夫かな、とちょっと案じていたが、法王が御登壇されると水を打ったような静けさで法王の御法話に聞き入る。なかなか大したものである。法王も、こうした若い人々との対話をしたがっていたようで、質疑応答の後半部は彼らを指名する。中で面白かったのは、ひとりの男の子が「僕は入学3日でこの高校が大嫌いになったが、それでも今まで続けていたために今日、ダライ・ラマさんのお話しを聞くことができた。これも何かの縁なのかな、と感じる」と言ったところ。うん、物怖じせずにここまで言えるとは、これもなかなか大したものである。「僕はお笑い芸人になりたいと思っているのだが、舞台に立つためには周囲の人々からの信頼が必要だと思う。でも今の僕はあんまり他人から信頼されていないように感じる。どうしたらよいのだろうか」。法王は微笑みを浮かべながら聞き入り、「信頼を得るには正直に生きること、嘘をつかないこと、表面と裏面に矛盾がないようにすること」といった内容を答えられる。
法王猊下、なにとぞご無理なさらないで、御身体をいたわってくださいませm(_ _)m。