新元号「令和」、の巻
これは平安京を造営した桓武天皇の冗談として有名なシーンです。宴会でいい気分になった(おそらくかなり酔っ払ってた)桓武天皇は、後宮の最高責任者である百済王明信に古い戯れ歌を投げかけたのですね。「いにしえの 野中古道 あらためば あらたまらんや 野中古道」、つまり「昔からの野中の古い道は、変えようとしても容易く変えることができないものだね」という何の変哲もない内容なのですが、実はこの百済王明信という方、右大臣藤原継縄の妻なのですが、もとはといえば若い時代の桓武天皇の恋人。要はこれは、桓武天皇が明信に「私があなたに抱いていた昔の恋情、それは今でも変わってないんだよ」ということを言っているんですね。天皇、悪ふざけをして明信に「和せしむ(令和)」、つまり「おいおい、せっかく私がこう言ってあげているのに、返事はどうなの?」と戯れている。でも万座の中での天皇の冗談に、辣腕の女官であった明信も慌ててしまい、恥じらって何もいえなくなる。悪ノリした天皇、「じゃ、私があなたに代わって返歌してあげよう。あなたもこういう風に言わなくちゃダメなんだよ」ということで「君こそは 忘れたるらめ にぎ玉の たわやめ我は 常の白珠(天皇であるあなた様はもう私のことを忘れてしまわれているのでしょうが、女の私は永遠に変わらない白い珠のように、あなたへの変わらぬ想いを抱き続けているのでございますよ)」と歌い上げる。桓武天皇は自分のこのジョークに明信が狼狽しているのを見て、満足して大笑いしたことでしょうね。なんとなくほのぼのとした感じの話で、私は大好きです。新しい元号の「令和」がこういうところから採られたというのは、なんか、いいですね。
【注記】
新元号「令和」がこの話を出典としているというのは、むろんのことながら大ウソで、正しくは政府発表の通り「万葉集」です。どうか本気になさらないよう、お願いいたします